目視による天候観測

2020.02.25

全国の気象台で、職員が実際に目で見て天気を観測し、

気象庁へデータを送る目視観測業務が消えていっている。

機械化の進展に伴う業務効率化の一環だが、

担当者は「駆け出しの頃は雲の見方を先輩に教わったものでした」と寂しげだ。

 ◆明治以来の伝統

 「高いところは平気ですか?」

 寒風の厳しい2月上旬。岡山地方気象台(岡山市北区)の入居する

5階建てビルの屋上にある、白い鉄塔に案内してもらった。

鉄塔の高さは40メートル。

むき出しの階段は、一応柵はあるものの簡易な作りで、

慎重に登らなくてはいけない。

 頂上に着くと、ぐっと視界が広がった。

「日中はここから雲の形や、見通しを目視でチェックしていたんですよ」。

同気象台の観測予報管理官、楠田和博さん(57)は解説する。

 気象台の職員たちが観測していたのは

午前9時、午後3時、午後9時の1日3回。

毎回空を360度見渡し、雲の量や形、視程(見通せる距離)を確認しては、

「晴れ」「曇り」など天気を記録。

パソコンで入力し、気象庁に送っていた。

 だが、この作業が2月3日に終了した。

 レーザーを放ち光の透過率などから視程を計測する「視程計」や、

気象衛星のデータを使い、作業は自動化されたからだ。

 気象衛星や観測レーダーの進歩により、

すでに観測の自動化は進んでいたものの、

同気象台の目視観測は観測を始めた明治24(1891年)以来、

残っていた“伝統”でもあった。

 ◆「薄曇り」「快晴」なくなる?

 観測の自動化は全国的な動きだ。

昨年2月に関東甲信の8地方気象台が、

今月には岡山など37地方気象台が自動化に移行した。

全国6管区気象台と広島、高松など5つの気象台は、

目視を残し機械と併用する措置をとっている。

 自動化により、人が雲の量を見て判断していた

「薄曇り」「快晴」などの微細な区分の観測は行われなくなる。

また、「にじ」など大気中の現象約30項目も原則として観測されない。

「晴れの国」を自称する岡山県にとって「快晴」の予報がなくなるのは

時代の節目だ。

 ただ同気象台では、黄砂や竜巻など生活に影響が及ぶものについては、

必要に応じて目視で確認し公表するという。

 ◆防災、啓発に比重

 こうした中、同気象台では、防災に向けた情報収集と判断が

重要な業務になってくるとしている。

 一昨年夏に発生した西日本豪雨では、同気象台の職員は県に対し、

いち早く「今回は特別警報が出ると思います」と

連絡、警戒態勢をうながしたという。

「注意報や警報を出す、出さないの判断は、最終的には人間が行うこと。

機械は百パーセントの答えは出してはくれない」と楠田さん。

 警報の啓発業務も比重を増す。

 雨の警報は以前は雨量だけで判断していたが、指数化が進んでいる。

土壌にたまる雨量による「土壌雨量指数」

▽河川に入り込んで下流に流れる雨量による「流域雨量指数」

▽地表にたまった雨量を指数化した「表面雨量指数」-といったものだ。

 精度は高くなるが、指数化による分かりにくさも指摘されている。

楠田さんは「一般の方々にピンとこない、という課題も出てきた。

われわれが理解を深め、啓発していくことが大切」と話している。

 

~~~産経新聞より~~~

 

 

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