正月病

2020.01.06

体がずしりと重く、起き上がれない

9連休という人もいる令和最初の正月休み。

クリスマス、大掃除、帰省、初詣……。

イベントが盛りだくさんの年末年始が過ぎました。

休暇明けの仕事始めに向けて気持ちを切り替えようとするのに、

「ああ、仕事に行きたくない」「体がだるくて動けない」

とこぼす人もいます。

新年の晴れやかなムードとは対照的に、気分が落ち込んでしまう「正月病」。

対処法はあるのでしょうか。

都内の金融機関に勤務する30代のA子さん。

毎年、年末年始の休暇明けの時期になると気分が優れません。

「年の瀬に残業続きだったし、友達と深夜に初詣に行ったり、

初売りに並んだりして疲れているのかも」。

あまり深刻にとらえていませんでした。

ところが、昨年は仕事始めの朝、しっかりと睡眠をとったにもかかわらず、

体がずしりと重く、どうしても起き上がれません。

結局、はっきりした原因が分からず、不調は1か月以上続き、

メンタルクリニックを受診したそうです。

千葉県内に住む40代のパート勤務のB子さんは、

年末年始に家族で義父母宅に出かけます。

「帰省ブルーをなんとか乗り切ったので、

せいせいしているはずなのに、

正月明けはいつも気持ちが沈んだまま」と言います。

3人の子どもの高校受験や大学受験が続き、

心労がたまっているのだろうとやり過ごすのですが、

買い物に出かけるのも面倒になってしまうそうです。

季節の変化にあわせた体の反応

東京・京橋の原井クリニックの院長で精神科医の原井宏明さんに、

「正月病」と呼ばれるこうした症状について聞きました。

年末年始に憂うつな気分になる「正月病」だけでなく、

「五月病」「ブルーマンデー」「サザエさん症候群」など、

季節や時期にあわせて心身の不調に名称を付けることは珍しくありませんが、

いずれも正式な病名ではありません。

自己愛に満ちた空想にふける「中二病」、

子どもが巣立った後に空虚感に襲われる「空の巣症候群」などは、

ライフサイクルにあわせた気分の変化としてよく知られています。

原井さんは、「正月病」は日照時間が短く、

冷え込みが厳しい冬に起因する症状だと指摘します。

「動物が冬眠をするように、寒い季節になると、

活動が鈍くなったり、こもりがちになったりするのは自然な反応です」。

年末年始の暴飲暴食や生活リズムの乱れによる不調であれば、

徐々に“平常モード”へ切り替わるはず。

毎年のように、「この時期になると決まって気分が優れない」

というのであれば、それは、いわゆる一過性の「正月病」と判断できます。

ただ、気をつけなければいけないのは、不調の原因がほかにある場合です。

「いつもはそうでもないのに、今年に限って特にひどい」という状態に

陥っていたら、うつ病やほかの病気が疑われます。

原井さんは「脳梗塞、ホルモンの異常、更年期障害などが原因と

なることもありますので、2月ごろまで不調が長引くようであれば

病院を受診したほうがいいでしょう」とアドバイスします。

では、モヤモヤとした気分に悩まされる「正月病」に

対処法はあるのでしょうか。

原井さんは、次のような行動をすすめます。

〈1〉夜更かし、寝坊を避ける
〈2〉日光に当たる
〈3〉休暇明けの業務をシミュレーションして備える
〈4〉出社が楽しくなるような出来事をイメージする
〈5〉一人で悩まず、だれかに相談する  

ただ、こうした助言をすると、患者さんの中には

逆に落ち込んでしまうケースがあると言います。

「布団にもぐってばかりで、日光を浴びませんでした」

「年末にやり残した仕事を考えたら、楽しいイメージが描けませんでした」

「相談できる人がだれもいません」……。

しかし、「私、やっぱりダメですね」と自分を責めても、

改善策になりません。

「『できなかった』『ダメだった』と悩み始めると、

今度は『なぜダメなのか?』と理由を探そうとしてしまいます。

過去のトラウマや性格的な弱さなどのささいな理由を見つけて、

さらに不調につながってしまうことがあります。

何もしないで考えてばかりいても現状を変えることはできません。

大事なのは、とりあえず何かしてみることです」と説明する原井さん。

「『うつ病などは励ましてはいけない』という一種の固定観念がありますが、

励まさないことと何もしないで待つことは違います。

ぜひ、環境を変えることにチャレンジしてください」と背中を押します。

~~~(読売新聞メディア局編集部 鈴木幸大)より~~~

 

 

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