現生人類を含む古代の人類が人肉を食べる食人(カニバリズム)をしていたのは、
栄養価の高い食事を取るためというより儀礼的な目的のためだった可能性の方が高い
とする異色の研究論文が6日、発表された。
英科学誌ネイチャー系オンライン科学誌に発表された今回の研究は、
先史時代の食人は広く考えられているよりまれではなかったものの
栄養的には得るところが比較的少ない危険な企てだったとしている。
研究では人体の部位ごとのカロリー値を算出した。
同じ重さで比較すると野生のウマ、クマ、イノシシなどは、
ほぼ骨と皮と筋肉だけのぜい肉のない体だった人類の祖先よりも
脂質とタンパク質のカロリーが3倍以上もあったという。
さらに食人の場合狩られる側は狩る側と同じ程度に賢いことから、
獲物は食べられるまでにかなり抵抗すると考えられる。
英ブライトン大学で考古学の上級講師を務めるジェームズ・コール氏はAFPの取材に
「今回の研究を行った理由は、人間が他の動物と比べてどのくらい栄養があるかを知りたかったからだ」と説明し、
「それを調べることによって現生人類や他の人類種が食人を行っていたのはカロリーのためだったのか、
それとも別の理由があるのかといったことが分かる可能性があると思われた」と語った。
ホモ・サピエンス、ネアンデルタール人、ホモ・エレクトゥスや他のホミニン族(ヒト)が
行っていた食人は文化的な意味合いが強いとする説があり、
今回の研究結果はこの説をより具体的にするものだ。
最近の研究では、加工物や装飾品などの証拠からネアンデルタール人を含む
われわれの祖先は豊かな文化を持っていたとみられ、
おそらく言語も使っていたのではないかとされている。
「古代人の共食いには、現代人が食人を行うのと同じくらい多くの理由があった可能性がある」
とコール氏は語った。
「肉を食べたいという理由だけではないのだ」
脚の骨から骨髄をすすったり脾臓(ひぞう)にかぶりついたりすることは、
縄張りの支配を再確認したり、死去した親族に敬意を表したりするための方法だった
可能性があるとコール氏は説明し、「こうしたシナリオにおいて食物の摂取はおまけみたいなものだ」と指摘した。
化石記録の調査や最近の遺伝子研究によって、古代人類の間で食人がかなり広く行われていたことが示されている。
コール氏は「これまでに見つかっている古代人の人骨はそれほど多くはない」とした上で、
「だがその少ないサンプルの中でも人間の手が加えられた痕跡がある骨は相当多い。
これらの骨には解体された跡や切り刻まれた跡など、
食人が行われていたことと矛盾しない証拠が多く見られる」と述べた。
現代の食人の動機として挙げられる要因は精神病から戦争、呪術、葬送儀礼までかなり広範囲にわたる。
船の難破や飛行機の墜落事故に遭った人が生き延びるために食人をする場合もある。
だが古代人の食人に関しては、通常主な動機は食物にするためだという推定によって
その動機の複雑さが「栄養」か「儀礼」の2つに不当に簡略化されているとコール氏は指摘した。